バック・カントリーギアー その1
「バック・カントリー」、スノーフィールドスポーツの流行になってきました。自然環境に対してどんな行為を「バックカントリー」と呼んでいるのか。?です。雑誌にも頻繁に使われるようになってくると、主観を主張するわけにもいかず、長い物に巻かれ気味です。登山者的発言をするなら、山の中で(ゲレンデ以外)スキーを使って登山行為とスキー行為をするのだから、「山・スキー」!理屈っぽいことはさりとて、お店にも「バック・カントリーをするには何を揃えたらいいのか?」という雪山フィールド経験がないお客様の問い合わせ、来店が増してきました。バック・カントリーに雪山フィールド経験が必要か?といえば基本的には「必要」でしょう。ただ現在はガイドさんが同行したツアーが数多く組まれているので、信頼のおける管理の下でするなら、経験の有無を問う必要はないかもしれません。まあどんな優秀なガイドさんや指導者のもとでも、環境と道具が一致していないと快適性も得られないどころか、行為も成り立ちません。一般のスキーヤー・ボーダーの人達の関心も高まってきてるようなので、自分たちの経験から装備の基本コーディネイトのアドバイスを少々。
 ゲレンデ外のフィールド(一般的にパウダーと表現されているようです)を滑ることが目的のこの行為には、基本的に滑る道具(アルペンスキー・テレマークスキー・スノーボード)があればOK!です。まずは、バック・カントリーというより、オフ・ピステ(ゲレンデに隣接した自然斜面)といったところからでしょうか。この場合は歩行距離はしれてますので、そのままのスキー・ボードブーツで歩いて行きます。脚が雪の中のどこまで潜ろうが、いい意味の雪遊びです。次に、さらにゲレンデ外に遠く出て行くには、歩く行為がもう少し長く続きますので、スキー・ボードブーツそのままの姿ではスムーズに進めず、結果は悲惨です。そこで働くのが、1.スノーシューという日本でいう、「わかんじき」です。わかんじきと比べると外形も大きく、浮力があるので、ブーツそのものだけで歩く沈み具合の3分の1位(平均)での歩行が可能になります。最低限アプローチには、1.スノーシューが必要ということになりますね。スキーブーツに取り付ける方々から相性をよく聞かれますが、スキーブーツのバックル位置などが普遍的(機種やサイズ)なので、実際にスノーシューをセットして確かめる方法しかありませんが、取り付けバンドをバックルに干渉する位置をちょっとずらしたりして工夫すれば、おおよそ大丈夫ではないかと・・・。関連して細かいことですが、滑り出しはそのスノーシューを外しますから、外したスノーシュー
を収納したり付けたりするザックは必要ですね。この際、ゲレンデ滑走用のスキーブーツ、ボードブーツで歩行できる限界(環境・時間)は知っておきましょう。
スノーシュー
        
スノーシューの定番メーカーとなっているMSR社、このモデルは軽量でありながらも、ねじれ剛性も強いので斜登行も繰り返さなければならないフィールドでもしっかりグリップします。山で使えるシューは必ずエッジが付いていることです!

バック・カントリーギアー その2
その1.よりもう少し機動力のアップした組み合わせを紹介してみます。一般的なボードは、スノーシュー以外の方法で登ることは無理ですね。スキーは、滑走面に、滑り止めの「シール(スキン)」を付けることで登高が可能となります。スプリットボードは、スキーと同様に、シール登行が可能ですね。
                
これだけでもスキーは滑り落ちませんが、進むのにいちいちスキーを持ち上げて歩かなければなりません。そこで、スキーを滑らせて進むために、スキーと固定されているバインディングのヒール部分が、スキー板から解放され持ち上がっていく機能を持ったツアー用バインディングを取り付けます。スノーシューでの登高よりさらに効率が上がり機動力がグ〜ンとアップします。
               
現在、穂高で扱っているマーカー社・チロリア社・ディアミール社のツアー用バインディングは、ISO・DINの両規格の認可がされていますので、スキーブーツでも適正にセッティングできます。また、ツアーブーツ専用モデルとして、超軽量化が魅力のテック・バインディングも多機種登場しています。が、メリット、デメリットをよく理解してセットしましょう。
       
道具はバックカントリー仕立てで、ゲレンデで滑りながら、天気や環境がいい状況なら、「ちょっとフィールドへ出るか」と出掛ける、そんなのがバック・カントリーのほんとうの楽しみ方なんでしょうね。
さて、現在のアルペン(ゲレンデ用)スキーは、ほとんどがスキーのフレックス・トーションバランス機能を生かすためにシステム化として、バインディング一体型になっています。そのためツアー用のバインディングを付けることができません。しかし、スキーライフの多様化が進み、どのスキーメーカーもフリーライドというカテゴリーのスキーを充実させています。このスキーは、「自由」がテーマで、パークで飛んだり、自然の雪の中を戯れたり、テレマークのスタイルだったりと、バインディングも自由に取り付けられます。このカテゴリーのスキーの特徴は悪雪、新(深)雪で、操作(特に浮力)しやすい設計(トップ・センター・テール部分が幅広)になっています。2016年モデルも、ロッカーというスキー形状が常識的になって、さらにターンがしやすくなりました。僕はゲレンデでも使っていますがそれなりに楽しんで滑ることができます。むしろ、中高年になられたみなさんで、久しぶりにスキーという方々にはメチャ×3、いいカテゴリーのモデルだと思います。
ロッカーというスキーの形状
     
最近のパウダー通のみなさんには、もう知られた形状のスキーですが、まだ使われたことのないスキーヤー、ご存知ないスキーヤーのみなさんも多いことだと思います。どういうスキーかといいますと、単純にチップ(トップ)部分が図のように逆反り常態になっている形状のスキーです。図では、チップの15mmの反りが、チップのトップから20cmのところから始まっているということです。このようなスキーを立てて滑走面同士を縦に合わせると、チップに向かってかなり逆反りに曲がっていることがわかります。一部の激パウダー用のファット(幅の太い)スキーにはこのような形状のスキーが見られましたが、今季の穂高で採用しているバックカントリーモデルは全アイテムロッカーです。一般モデルのスキーにもこのようなロッカー形状のアイテムが登場しています。ただ、反り具合、反りの位置など、その形状もさまざまなので、スキーライフに合わせて選択していくことですね。スキー人口が増えない中、作り手は、一人のスキーヤーにさまざまな環境にマッチしたスキーを何本も持って、使い分けたライフをしてほしい!という意味の発信かもしれませんね。
このスタイルでも、スキーブーツでシール登高が可能な環境・時間の個人限界は知っておきましょう。テレマークはもともとヒールフリーですからシールを用意すればOK!
登高標高差があまりなく、短い時間で滑り出し地点(ドロップアウトポイントというそうです)まで行くことが出来る場合は、シールの脱・着より、手間のかからないスノーシューがよいというバックカントラーもいらっしゃいます。
バック・カントリーギアー  シール(スキン)
                
シールの詳細を少々。最近主流となっているバック・カントリー向きのスキーは、カービングスキーの中でも特にトップ幅、センター幅、テール幅が広くなっています。新雪で浮力を出すための形状と言っても過言ではありません。それはそれとして、登高のためのシールもそのスキーの形状に近いカットをしないと効率どころか、ズレてしまって登高不能となってしまいます。特にスキーのセンター部分に近くなるにつれて重要で、スキーの滑走面(エッジを含む)とシール幅との間に左右それぞれで5ミリ以上の空きがでるようなシールのカットでは、斜登高の際にスキーが谷側にズレやすくなります。主流のバック・カントリー向きスキーはシールサイズで幅120mm〜130mmの2サイズの中から選択すればほぼ該当でしょう。次に、シールのタイプですが、1.スキートップに引っ掛けてテールに向けて貼り付けるだけのタイプ(ヒールフリー)と、2.ヒールに引っ掛けるフックが付いているもの(ヒールフック)の2タイプがありますが、日帰りバック・カントリーの域を越えないのなら、1.のヒールフリータイプの方が、簡単で脱着がしやすいといえます。長期のツアーには、2.のヒールフックが付いているものの方が、継続支持力が高くていいでしょう。
シールは、スキーより幅広く出来上がっていて、それぞれのスキーに合わせてカットしていきます。できれば、みなさんで自分のスキーと照合しながらカットしてほしいのでが、
現実は、「カットしといて下さい!」です。
僕たちは残雪期の日本アルプスの6月付近まで「山スキー」を引っ張っています。積雪期にはモヘア系のシールを、残雪期にはナイロン系シールを使い分けています。その方が、トータル的にはシールが長持ちすることもわかってきました。

バック・カントリーギアー その3 山岳スキーブーツ
足元ギアとしては最終形です。スキーはその2で紹介したシステムですが、ブーツをスキーブーツではなく山岳スキーブーツに仕立てます。日帰りでも歩行距離、時間が長い場合や連泊のツアーには、山岳スキーブーツがいいでしょう。このブーツはソールが傾斜のある雪上を歩行しても滑りにくいゴム底になっている(登山靴系)他に、アッパーシェルにウォークポジション・スキーポジションと切り替えができるシステムが搭載され、可動域を広くとっているため、長時間の歩行や硬い(氷化した)急斜面でスキーを外して、ブーツにアイゼンをつけて登らなくてはいけない環境に出くわしたときに機能が発揮されます。最近の山岳スキーブーツは、滑走性も考慮して、剛性支持力を上げてきています。日本アルプスの山々に何日も入るという山岳スキーヤーには、山岳スキーブーツですね。
              
              

バックカントリーギアー その3 バックカントリー・ブーツ
ゲレンデを拠点として登行距離、時間がさほど長い行程をしない、バックカントリー嗜好のみなさんには、バックカントリー対応ブーツがいいですね。バックカントリーブーツも、アッパーシェルにウォークポジション・スキーポジションと切り替えができるシステムが搭載され、可動域をとっています。ただ、平均的に山岳スキーブーツほど広い可動域をとっていないのが現状です。シール登行の範囲には快適に機能します。
ゲレンデ滑走比率が70〜80%で時々バックカントリーライフのみなさんが、ブーツの使い分けをせず、1足でこなすのに最適なアイテムです。サロモン社のクエストシリーズ、テクニカ社のコーチスはいいですね。
              
             

ブースターストラップ
これ、特別なものではありません。最近のスキーブーツには最上部にフィットや伝達を高めるためにベルトが付いています(通称:パワーベルト)。そのベルトの高機能バージョンです。ベルト自身がエラスティック構造になっていて2ウェイ方向の伸縮します。そのことで、足首の動きをブロックせず、力の伝達機能が向上して、いい感じで、新しい操作感覚が感じとれます。昨年もたくさんのエキスパートスキーヤーから絶賛された逸品です(僕、エキスパートスキーヤーじゃないけど、昨シーズンから使っていました。元に戻せません)。今シーズンはレベルアップを目指すスキーヤーや、ツアーブーツ向けにやや柔らかめのスタンダードというアイテムが登場しました。早速、僕のアドレナリンに装着して使ってみました。い〜ですよ!
ブースターストラップ・スタンダード目新しいような特別な物ではありませんが、単純なところに改良点があり、思わぬ効果があることを、思い知らされました。単なるパワーベルトで、¥5040(税込)とは高価なものですが、体感したら納得です。

バックカントリーギアー その4 パック
どのパックメーカーもあるいはパックメーカーじゃないメーカーでも、バックカントリー用パックとなるものが氾濫?してきました。で、お客さんはというと、メーカーの宣伝どおりバックカントリー用のパックをと求められます。パックは、基本的に必要な装備・食料が適正に収まり、「背負いやすい」ことが大切です。表面上の便利機能ばかりではなくフィッテイングにも目を向けてくださいね。特に身体に合わせてパックの背面サイズの確認は忘れないように。スキーの場合はパックのサイドにストラップ付いていれば(現在のパックはほとんど付いています)着けることが可能です。まあ、その場合プロテクターが付いていないとエッジでパックの生地が切れやすくなることもありますが・・・・。背負ったバランス的にはサイドに左右振り分けた方がいいのではと。サイドにスキーを付けた場合、スキーのトップ部分を合わせて「ハの字」型に止めますが、その際のベルト(止めることができるものなら何でもOK)は忘れないように。スノーボードの場合はパックの表側に取り付けが可能なスペースとストラップがあるものが絶対的に必要ですね。
              

バックカントリーギアー その5 グローブ
いや〜困った!多品種過ぎて・・・・。これも基本的にスキー場の範囲のどんな環境下でも1日中、快適にスキーができるクローブならOK!としておきましょう。
                 
しかし、滑り始めるところまでは歩いて移動しているため、汗で湿気ったり、ゲレンデの中と違って整備がないので外的要素から濡れることが多い。濡れてしまうと乾かすことは環境的に無理なので、交換する。スキー用グローブだけでは機動力的に限界があるので、それはそれとして、登山用のウールの手袋とオーバーグローブでアプローチしましょう。この際、スキーグローブは滑走用ですからパックの中に濡れないようにパッキングしておきます。

オーバーグローブ

ウールグローブ

バックカントリーギアー その6 ストック
とりあえず、滑るだけのことを考えるならスキー用ストックがあればOKです。ストックをバックカントリー仕立てにしなきゃいけない理由は、登高時にバランスをとる支えが必要となるからです。まず、パウダーの雪の中にストックを突くために埋まっていかないようストックの先の「リング」を大きいものに変えなければなりません。しかし、一般のスキーストックはリングを取りかえれるシステムになっていませんので、使い物にならない!次に登高時の環境(雪の深さ・傾斜等)に対応するために、ストックの長さを調節するこができる機能が必要ということです。

例:こちらはスキーストックの老舗メーカー・シナノ社から発売されているフリーSV・BCのリミテッドバージョン。グリップも握りやすく、バランスもとてもいい!税込¥16380
他にも、ケルマ社・レキ社・ブラックダイアモンド社などからも発売されています。
スノーボーダーは滑りはフリーハンドなので登高時にサポートできるためのストックでいいでしょう。3段式で収納時にコンパクトになるブラックダイアモンド社・エクスペディションポールがおすすめです。税込¥9450

バックカントリーギアー その7 ショベル
ショベルって、もともと雪国では危急時対策備品ではなく、生活必需品です。その主たる目的は除雪です。登山者やバックカントラーが雪山に入っても目的は同じですが、最近のみなさんは特に、雪崩に埋没したら掘り出すための危急時道具としてのイメージが強いようです。もちろんそれも大事なことですが、それより前に、生活のためのテントサイトを整地する、あるいは、雪洞やイグルーなどの生活シェルターを作る時にも必需品です。スキーヤーは深雪で転倒して、スキーが外れて雪の中に埋まった状態なら、ストックで突っつくのではなく、ショベルで突っついてください。ストックより深く入るし、当たり面も広いので、見つかるのも早いと思います。
みなさん、3人(例としての人数です)が安全に滞在できる雪洞作りを、是非、体験・練習してください。どれほどの時間と体力が費やされるか?雪崩に遭遇した時のための掘り出し練習も大切ですが、こちらの方がより、現実・・実践的かもしれません。ビバークをしなければいけない環境に遭遇した場合でも、安全なシェルターを作り上げるための労力・時間の経験を持っていれば、余裕をもって安全シェルターが・・・・。ギリギリまで行動して疲労しきってシェルター作りを始めれば、中途半端なシェルターになったり、作ってる途中に疲労困憊で・・・・・。
さて、ショベルですが、今は種類豊富ですね。小さくコンパクトになる、見た目に納得いきそうなショベルで重い雪がスピーディに除雪できるか?も想像を働かせて・・・。それがダメなわけではなく、限界を知っておくことが大切です。こちらはボレー社のテレプロショベル。豪雪の除雪をされてるみなさんから見れば「ケッ!」てなもんかもしれませんが、業界では丈夫な方です。

バックカントリーギアー 電波だらけ
バックカントリーのみなさんは、「ビーコンありますか?」、「GPSありますか?」と。ハイテク器具の感心度は相当なものです(もちろんいいことですよ)。現在のデジタルビーコンなら、埋没者を検索するのは「あっと」いう間だと思います。それより、埋没者を生存ゴールデンタイム内(おそらく15分以内かな?)で掘り出せることの方が・・・・。
昔の話をすると、時代錯誤と批判を受けますが、ビーコンだ、GPSだ。てなハイテク器具を使って安全のバックアップをとるようになったのはここ最近のことで、使わずにフィールドに入っている歴史の方がはるかに長いですもんね。しかし、近年の長野県下の雪崩・凍死事故は年々増えてるそうですよ!はて・・・・?
無線機は昔も今も持っていますね。今は・・・、+ビーコン着けて、GPS持って、携帯電話持って、体中電波だらけです。正〜直、こんなの着けて自然界に入るって自然なスタイルじゃないですよね。もっと大事なことが?隠れてるのでは・・・?持たずに行ける環境・状況を徹底してさあ!
理屈はさりとて、持たずに入山して「もし・・」だとしたら、「ビーコンも付けづに雪山に入って!」と社会批判受けますね。ということで、ビーコン用意しましょうか。

付録: スノーソー
雪をブロック型に切り出すための切り口を入れるノコギリです。雪洞やイグルーなどを生活シェルター作りの時に効率のいい作業ができます。また、テント設営後、雪で防風ブロックを築きあげるのに、ブロックカットには必需品です。最近、ショベルの柄の部分に収納されている、便利系スノーソーも無いよりまし系ですが、切れ味は、むか〜しから発売されてる右のモチヅキ社のスノーソーは信頼度たっぷり。おっと!ピットチェックのトレンチを掘るにも必需品でした。
モチヅキ社・スノーソー¥5460(税込)
付録: ツエルト(付録というか必需?)
登山をされてるみなさんは、危急時対策シェルターとして常時携帯されている装備でしょうから、今さら・・・ですね。しかし、無雪期とはちょっと異なり、積雪期の危急時シェルターは雪洞です。ナイロン番手の薄い現在の軽量ツエルトだけを被ってビバーク体制をとっても、きっと強風雪で引き裂かれてしまう可能性も・・・・、それより暖をとる空間ができにくい!。むしろ、雪洞やイグルーの中にこのツエルトを吊るす使い方になるでしょう。あるいは入口封鎖に使ったり。また、雪崩に遭遇して運よく脱出、救出されたとしても、ケガや消耗はあるでしょう。自力で麓に下山できない状況で、搬送にも役立ちます。雪山備品、3点にこだわるなら、ビーコン・ショベル・ツエルトのが現実的だったりして・・・・?